ivataxiのブログ

絵 文章 映画

あんぱん

アンパン

 

「おやつにパン何が良い?」と、聞かれる。さぞ考えるのに時間がかかると思うかも知れないが、間髪を入れずに「アンパン」と答える。喫茶店では「ホット」だし、飲み会なら「生中」と、条件反射だけで生きている脊柱動物なのだ。アンパンによく似たすっかり中に別な味の物が入ったパンの中には「白アンパン」「緑アンパン」「カレーパン」「クリームパン」「チョコパン」「ジャムパン」などもある。カレーパンには少し触手が伸びそうになるが、あれは揚げてあるから違う仲間なのだ。グラグラする自分に厳しいのは食べる物に関する時だけだ。だから「いや、ここはガンとしてアンパン」なのである。アンパンでも店によっては「こしあん」「つぶあん」とその中間的なものがあるが総称して「アンパン」とする。上部に白い小さなツブツブが付いた物もあるが、あれは何だろう?「おへそ」のある物もあるようだが、最近のコンビニパンには見られない。やなせたかしさんがパンのヒーローに「アンパンマン」を選んだのもうなずける。
17才の夏に、初めて東京に出た。小金井のオジの家に夏休みの間泊めてもらった。夏期講習という奴だ。冬と春には埼玉のオジの家に居候させてもらう。船橋のオジはまだ新婚で邪魔者扱いだったから一泊位。叔母のご主人の弟が東京でイラストレーターをやっていて、神宮前に事務所を二人で出したばかりだった。「オレンジ2」という事務所だ。渋谷から歩いてその事務所に向かう途中で「VANジャケット」のビルを見た。オジさんの相棒は「アートデレクター」という当時は訳のわからない職業だった。遊びに行くと助手の女の子と一緒にお使いに出された。近くの他の事務所に寄ったり、オヤツを買いに行くのだ。アートデレクターは渋い顔でイケメンだが坊主頭だった。坊主頭なのにいつもスリーピースでキメていた。どこか外国風のオモモチなのだ。「オヤツ何にします?」と聞くと、彼は決まって「アンパン」と答えた。コシアンでもツブアンでも良いのだが、シロアン・ミドリアン・ジャムパンはだめだった。ぼくは受験に失敗して、専門学校に通うことになるが、それでもその事務所に少し顔を出していた。やがてアートデレクターは肺病になって事務所も解散になる。
「アンパン」と、ついいった時にアートデレクターの渋い表情と坊主頭でスリーピースで決めた独特な事務所の雰囲気が脳裏をよぎって、甘酸っぱい気分になるのだった。