ivataxiのブログ

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トライアスロンスーツ

1996年7月、沼津千本浜のトライアスロンに参加した。結局はそれが、最初で最後のトライアスロンとなったのだが。トライアスロンというと、夏のイメージがある。7月はじめの千本浜の水温は少し低めで、足がけいれんを起こしてもいけないからか、ふくらはぎまで隠れるウエットスーツの着用が義務づけられた。スイム・バイク・ランの最初のスイムで、足のけいれんでリタイアしても困るからだろう。ウエットスーツを持っていなかったので、新調することにした。サーフショップの既製品が、もしも体に合えば少しは安く上がったのかもしれないのだが「あなたは背のわりにふくらはぎが太いので、特注ですね」といわれた。どうしても競技参加には必需品なので、いいなりで作った。金額もさることながら、競技までに間に合うかという問題もあった。ともかくまにあったウエットスーツの試しには、近くの小学校の屋外プールを借りることになった。まだプール開き前だったので、自由に使っていいということになったようだ。6月のプールの水温はまだ冷たく、水面には様々な物が浮いていた。プール底のラインよりも、落ち葉や藻の緑の方が強く目につく。千本浜のスイムは750m。標準が1500mなので、半分の長さだ。この日「ウエットスーツを試すイベント」に参加した他のメンバーは、ほとんどが1500mで参加するので、この日はその長さで付き合うことになった。普段プールではカイパンで泳いでいるから、ウエットスーツの感覚に慣れるには貴重な体験である。真水でも少し体が浮く。ワキがこすれるので「ワックス」を、海では使うみたいだが、ここはプールなので使えない。薬局で「白色ワックス」を購入したが「何に使うの?」と、女性店員さんに変な目で見られた。普通は何に使うのだろうか。千本浜は短距離だが、一応トライアスロンなので、「クラブ」に所属しなくてはいけない。最寄のクラブに入いるなり、このイベントが催されたのだ。「付加心電図」の提出や誓約書など、他のスポーツよりも危険なのだろう。チームの世話人は、普段は泳ぐ人なのだが、この日はタイムを計ったり、世話に徹していた。自分でタイムを計るのはいつも面倒だと思っていたから少しうれしい。参加者の中には、トライアスロンには出ないが、普段はスポーツジムのインストラクターだったりという人もいた。彼は早く、バタ足だけで、抜き去られた。トライアスロンに出ない彼はカイパンで泳いだ。隣のコースで泳ぐ唯一の女性と、ほぼ同じタイムだった。1500mをずっと並んで泳ぐというのは、不思議なものだ。イルカになったみたいな、言葉ではないコミュニケーションを感じた。早い人はとっとと出ていたから、二人で残って泳いでいた。100m泳ぐのと、1500m泳ぐのでは、少し違う気がする。気持ちとしては「2000m泳ぐつもりで、1500mで辞めておく」という感じだろうか。「明日もまた、同じ距離を泳げる」というゆとりを残しているのだ。30分で全員水から出た。次は50km程の距離を自転車で走る。ウエットスーツの試しだけでも良かったのだが、つきあうことにした。25kmくらいの地点を折り返すのだが、折り返し地点には、軽トラックに世話人が乗って先に行っていた。備品を積んでいる車があるというのは、とても心強いものだ。実際、タイヤの調子が悪くなった人もいて、助かった。万一、最悪の場合、軽トラなら自転車を積んで帰ることも可能な安心感があった。いつもは一人で自転車の練習をしている。パンクの修理キットは持っていても、実際には使ったこともない。また、パンクに見舞われたこともなかった。60kmほどの周回コースの一番遠くでパンクしたら、走って帰れないだろう。走るのが苦手で10km以上走ったことがない。千本浜は5kmのランなので、なんとか完走できると思えた。一緒に自転車から参加したメンバーの一人は、マウンテンバイクで参加した。他の人はロードタイプなので、不思議。彼のふくらはぎの筋肉はとても大きかった。トライアスロンの人は、水泳・ランニングもあるから、自転車は力を温存しながら、早く・長く走る。回転を高く、ギアチェンジを頻繁にして、ふくらはぎへの負担を減らす。むしろ、背中からふとももの後ろ(ハムストリングス)を使う。だからなのか、何となく筋肉の形が違うみたいだった。スポーツインストラクターの男性は、そのまま自転車で家に帰って行った。折り返し地点までは、縦に並んで走った。いちも一人なので、他の人と走るのは珍しい。ヘルメットに開いた穴から、水を入れる人・ポケットから取り出した食べ物を食べる人。走るパフォーマンスも競技の一部なのだろう。水分補給は重要で、水筒を自転車に積んでいる。水筒を積む所に、市販のジュースの瓶をそのまま乗せている人もいた。走りながら飲む水は、水道水でも美味だった。お茶・ジュース・ポカリスエットなど、様々に混合している人もいた。ここ浜名湖は、海とつながっている。喫水という奴で、海水と淡水の両方の魚が釣れるから、釣り人のメッカの一つでもある。夏の夜には、花火を見ながら屋形船というのも良い。部屋が浮いた形で、中で宴会もできる。自転車で走っていても、陸ばかりか、海も楽しめる。風は常に西から東へ吹く。ほぼ平坦なコースで、行きが楽なら帰りは向かい風で苦労する。新居の関所辺りから出発し、弁天島の料金所を通り(現在は無料)舘山寺温泉が折り返しだ。料金所を通る自転車は、設置された箱に「暗黙の20円」を入れる。折り返しの舘山寺温泉では、自転車をいったん降りる。水分補給・トイレなど、各自休憩する。浜名湖が見える辺りで景色を見ていると、普通の観光客にも見えるだろう。ただ、荷物になるのでお土産は買わない。世話役の配るアメがおいしい。お砂糖と違い、少しずつ溶けるから、血糖値が急には増えない。水分だけでなく、糖分も消耗しているからうれしい。あまり休むと帰りがおっくうになる。帰りはそれぞれ、自宅に向かう。早い人、遅い人。やがてはみんなそれぞれに散っていった。普段、一人で自転車も練習しているから、一人には慣れている。でも、さっきまでみんなと一緒だったから、何だか少し寂しい。一人で自転車に乗ると、自分と自転車の関係に集中できた。後ろ7枚の歯車を変更してあるので、その感じを覚えたかった。予算の関係で、自転車は鉄製だ。予算がある人は、カーボンやグラスファイバーである。タイヤも大きめで、外観も大きい。トライアスロンで唯一機械がバイク。これが貧富をあらわしてしまうのだ。高価な自転車は、安い自動車ほどもする。トライアスロンは、泳ぐ・自転車・走るのみっつの競技からなる。どれか一つのタイムだけではない。だから、それぞれの競技から次に移る素早さも、トータルのタイムのうちである。四つ目の競技といえば「着替え」なのかもしれない。最初から最後まで同じ服というのも可能だ。「トライアスロンスーツ」というのもある。カイパンで自転車をこいだり、走ることも可能。だが、できれば、自転車用のパンツをはいたり、運動靴には履き替えたいものだ。自転車用の靴をはくと、自転車のタイムは早くなるが、走る靴にはきかえる時間がいる。結果、ランニングの靴で自転車をこぐ。ペダルにベルトで靴を固定するタイプで、足を引き上げるときにもペダルに力が加えられた。どうしても自転車はヘルメットだけは、しなくてはならない。できれば、サングラスもしたほうがいい。場合によって、透明なグラスを使うようだが、それは持っていなかった。サングラスも風を切るデザインだ。だが、あまりに効率よく風を切ると、サングラスの中に風が入らず、暑かった。なので、少しいい加減なデザインのサングラスのほうが、目に汗がはいらないようだ。最後のランニングもカイパンのままで走る人もある。カイパンを脱がないで、自転車用のパンツや、ランニングのパンツを上にはく人もいる。海水が気持ち悪いから、時間があればちゃんとカイパンを脱いで、乾いたズボンで走りたいものなのだが。ランニングは苦手で、これでどんどん抜かれた。曇天で水分補給も、かえってお腹が痛くなった。でも、ともかく完走。順位は秘密である。同じ所属チームの、プールのウエットスーツのお試し練習で顔見知りになった男性と、ほぼ同じタイムだった。一緒に、自転車と荷物をとりに行く。ともかく早く、海水を洗い流したい。カイパンのまま、水のみ場の水道の蛇口を上に向けて、それで体を洗った。バスタオルでなれた手つきでカイパンを着替える。彼はいかつい風貌に似合わず、繊細な手つきで、カイパンや水中メガネを洗っていた。