ivataxiのブログ

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ギンナン

「茶碗蒸し」を知らない海外の観光客などはきっと「とても熱い塩味のプリン」だろうと思うかも知れない。お皿に台形に押し出せばプリン(プディングというのか?)にも見える。日本風な塩味の出汁仕立てだなんて食べないとわからない。薄く黄色みがかったプリン色の不透明なベースの下に色んな具材が隠れているが、薄切りのたけのこやエビ・しいたけナルトなどはあえて見せるようにトッピングされている。もっと中を深く掘り進んで行くとようやく、餅や銀杏などに遭遇する。地球における「レアアース」と似た立ち位置だ。子供の頃、茶碗蒸しが熱いから器を持てないことや、急いで食べようとすると口の中がやけどするなど、気を付けないといけないことも多かった。「銀杏」という樹の実「いったいどこが美味しいのだろう?」と、ずっと疑問だった。「いらんのか?ほなくれや」と、大人たちに略奪されるのもいまいましいからちゃんと残さず食べたのだが。少し苦味のようなアクのある何ともいえない味で、必ずドラマに出てくる主役を食う脇役的な渋い存在感があるのだが、まだ子供の舌には馴染まないのだ。また、その「化粧を取ったウルトラマン」みたいな少しつるっとした可愛らしい外観とのギャップもいけない。人生の秋に達してようやくうなる味の領域の1つなのだろう。「銀杏の実」と「イチョウ」は、別な物だとずっと思っていた。黄色い銀杏並木は不思議な空間で、散歩をする時に、緑の並木や紅葉とも違う深層意識を沸き上がらせる。恐竜の闊歩する時代から長く地上に残る種らしく、とても生命力旺盛な樹木らしい。並木の下に落ちている実を踏むと活字にしにくい異臭がする。忘れてその靴のまま、密室や車に乗れば温まってさらに臭う。まさかその異臭の実を食べようなんて考える人類が日本の祖先にいたなんて。とても料理に苦労が伴うのだが、茶碗蒸しの銀杏は「やった」という噛み殺した言葉と共に、茶碗蒸しを食べる人の頬をほんの少し笑顔にさせるアイテムなのかも知れない。