ivataxiのブログ

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海に「人の丘」ができる

水泳が、自分の中では一番自信があった。砂浜に横に並び、号砲を待つ。乾いたあっけない「パン」という音が、待っていた号砲だった。自信なさそうに、バラバラと走り出す。トライアスロンの先輩は「海水は、プールと違い、鼻にツーンと来るぞ」という。本当に、ツーンと来た。もし、ゴーグルをしていなかったなら、痛くて目も開けていられなかったかもしれない。波間には、走って足から入る人もあり、頭から飛び込む人もある。最初のコーナーにかけて、ロープが張ってある。広がった人の群れは、最初のコーナーに集中して集まる。すんなりそこを通過できるのは、最初の数人だけだ。あとは、段々固まって、足もつかない深さの海に「人の丘」ができる。一応、普段プールで泳いでいるように手足を動かすのだが、水をかくことすらできない。手は前の人間の体のどこかをたたき、足は後ろの人間をけった。そのしばしのときは、永遠の長さにも思える。とにかく死に物狂いなのだ。人間に生まれる前に体験した「精子の泳ぎ」を思い出す。海水を飲んで、戦闘意欲はそがれた。ともかく、呼吸をしたかった。やっとコーナーを抜けても、しばらくは背泳ぎで呼吸を整える。見ると、ブイに捕まって浮いている人、ロープに捕まる人もいた。救命ボートや、サーフボードも近づいていた。呼吸が整いクロールに入る。個人的な理由で、平泳ぎの足の形ができないので、クロールしかないのだった。海水とウエットスーツの取り合わせは抜群で、体が浮いた。手足の力をすべて前に進む力にできる。手のかきも早くなる。750mはすぐに泳ぐことができた。頭では早く走れるつもりが、波から上がり砂浜を走ろうとすると、妙にぎこちない動きしかできなかった。はだしで、防波堤を上がり、自転車にたどりついた。自分では「水泳が向いている」と思っていたのだが「水中でのバトル」は怖く、二度とトライアスロンは出ないことにした。プールで泳ぐだけにして、デュアスロンという競技に転向した。デュアスロンは「二つの競技」のことで、一般には「自転車・ランニング」をさす。ランが遅いのに、ラン・バイク・ランと、二度走るのだから不利ではある。