ivataxiのブログ

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過去生VR

退行催眠で生まれる前の記憶を話し始める人のことをどこかで読んだ。
バーチャルリアリティーという仮想現実を見せる、疑似体験ツールも進化している。
この二つをくっつけて作られたのが「過去生VR」だ。
過去の記憶を語る人々というのは自力で過去の生きざまを思い出すことができる、いわば少数派。
一般大衆でも「過去生VR」を使えば、過去の人生をジャンプして振り返ることができるのだ。
さあ、あなたも。

ぱっとしない日だ。
ぱっとしない町だ。
そういえばこの人生もぱっとしないのはなぜだろう。
気づくと、ある研究所の体験コースに登録していた。

「この機械をつけて」
と、自称科学者というぱっとしないオッサンから渡された、ぱっとしない開発途中とすぐにわかる完成度の低い機械を頭からスッポリかぶる。
オートバイのヘルメットに機械をつけただけということはすぐにわかる。
その機械をかぶってしまうと、ぱっとしない科学者もぱっとしないこの町も、すっかり見えない。
「さあ、きの機械を作動させますよ。用意はいいですか?」
と、いわれてもどんな用意を用意すればいいのだ。
視覚を奪われているから、その科学者が何かゴソゴソする音しかわからないが、本人の言葉を信じれば、何かのスイッチなりレバーを操作しているのだろう。
「では、まず一つ目の過去生に戻ります」
「ブイーイイイン」という音がパッとしない室内に響いた。
果たして自分の過去生というのは

 

「ここは」

真っ暗だ。
「いつだ」
機械の真っ暗なハズの内側に、ある時代の世界が広がる

はず
日本なのだろうか、着物の人々。戦国時代以前なのだろう、平和な表情と飢餓。
いや、韓国や中国のどこかの着物を着る国なのかも知れない。自分の目線からすると子供だ。
馬のヒズメが「パカパカ」聞こえ、地響きが近づく。人々の悲鳴。バラバラと逃げ惑う村人たち。馬の影。火をつけられた村の貧しい小屋は焚火のように見える。自分に迫る馬に乗った戦の装束の男は見覚えがないが、どこかで見たような。
「そうだ、ここのぱっとしない研究者の男じゃないか」

湾曲した大きな刀を高くかかげ、自分の首に向けて振り下ろした。
飛んだ首の視界が空中をグルグル回ってやがて画面は真っ暗に。


「どうでした。過去生は見えましたか?」
という科学者の顔のど真ん中に、無意識にパンチをくらわせていた。