ivataxiのブログ

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第六感質屋

先祖代々の質屋。昔は立地もよくてリッチだったとも聞く。何代か前の誰それがボケて財産をすってしまったとか、戦争で失ったとか都合のいい先祖からの言い訳はほぼ信じるに値しない。ただ、長年同じ家系で同じ職業を脈々と続けると、遺伝子に刻まれる能力という物もあるのかも知れない。「第六感」という言葉がある。五感は味わう・聞く・見る・触る・匂う感覚。それ以外の感覚が第六感。「虫の知らせ」とか「女の勘」など、ごく普通に感じることもあるが、人の心を読める、いわゆる「テレパシー」のような超能力という特殊能力まで第六感のすそ野は広い。オレのは儲からないが確かな先祖からの脈々と受け継がれて増幅した超能力未満の能力と自負している。儲かっていれば本でも書いて講演でもしてセミナーの会社を作って、フランチャイズにして左団扇で左手が疲れるに違いない。だが、儲からない朽ち果てた街並みのシャッター通りの間口の狭い質屋なのだから、現実は厳しい。
そうだ、オレの能力についてだった。
聞いてもアンタも儲かる訳じゃないから、ヒマなら聞いてもかまわない。
あ、ヒマなのね。
じゃあ、お互い様だ。
例えばこの茶釜だが「ブンブク茶釜」と、書いて1000円の値札だ。でも、違う。平安時代に蹴鞠の名手が日ごろ使っていた茶釜だ。彼は事故で利き足をくじいてしまう。現在のサッカー選手に置き換えればわかる、当時の彼の悲嘆は。職を追われ質屋に家財を売ってしばらくは生きたが、すさんで短命な人生だった。ということが、触るだけでわかるのだ。たとえばこのブランド財布。水商売の女が客の男にねだってブランドを指名して買わせた高額な物。だが、女は客の男に同じブランドを買わせて「アナタのプレゼントの財布よ」と、見せそれ以外は質屋で金に換えたのだ。だが、男も男。ブランドのカバンの店で、その形を確認してこの質屋で質流れを買った。そしてその財布をまた女が質屋に入れてという無限サイクルだった財布だ。
とかね。
こんな話を聞いても儲からないだろ。
話を聞いていた客の男は、ブンブク茶釜と財布を買って帰った。酔狂な客だ。
その後「第六感質屋」という、軽い内容の本が売り出され、その作家は大きな賞を受賞したそうだ。テレビで取り上げられて顔が出ていた。質屋の男は昼のテレビでその男の顔に見覚えを覚えた。「あの時の、あの客じゃないか」と、悔し気に乾いた声を絞った。「この蹴鞠も勧めておけばよかった」と、小さな欲望に無念を感じる小市民超能力者未満である。