ivataxiのブログ

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丘の上のムクロ

峠のムクロ(骸)
戦国時代より少し前の衣装を着ている。ワシは母者と二人でこの峠に住む者。月明かりに母者は峠の切り立った先あたりに立っているのが見えた。冷たい夜霧が山の高みから降りて来て月明かりだけでは足元が見えない。足元が見えなくとも母者はここで育ったのだからワシは安心して少し離れて見ている。こんなワシの所に来る嫁もなかろう。いつまでも母者と二人でここで暮らすのだろうか。「のう。この世ばかりではないのだろうが?」と大声を出す。母者は答えない。母者の姿が見えない。夜霧に峠の端を見誤って落ちてしまったのか?いや母者はここで生まれたのじゃそんなことはない。

だが母者は消えた。誰もいない月夜に照らされた夜霧が谷にゆっくりと重たく落ちる峠の端に向かってもう一度大声で話す。「のう。この世ばかりではないのだろうが」と・・。