自転車屋さんのおじさん

もう、ずっと自転車で早く走るなんて生活はしていない。1996年前後に友人が組み上げてくれたマウンテンバイクがきっかけで、変速機付き自転車という物に触れた。ただ乗っているだけなのがつまらなくなり、レースに出ようと思った。「マウンテンバイクでもOK」と、デュアスロンの案内にはあった。でも「オンロードとマウンテンバイクではだいぶ違いますよ」と、若い自転車屋さんの友人にいわれるままに鉄の安いオンロードを購入。値段の高い物は早くても買えないのだから、自分の不甲斐なさを自転車屋さんの調整に頼ることになった。その店のオジさんは、ニコニコとくだらない注文に答えてくれた。マウンテンバイクのオフロードのタイヤがツルツルになって中が出てしまいそうな危うさがあったので、街乗りのタイヤ（マルチパーパス？クロスカントリー？）に交換してもらった。しばらくオジさんは何もしないでタイヤを見てニヤニヤしていた。「ここまで使ってくれたら・・・タイヤも本望だろう」と。オンロードもレース用のタイヤはあまり消耗させたくない（結果、10回位しかレースには使わなかった）から、練習用を作ってもらった。多少頑丈でスピードは遅いが愛着があった。たった一度しか出場しなかった千本浜のトライアスロンでは、短いコースなので、一番高速のギヤを交換してもらった。くだらない仕事だと思うのだが、若造に「これは無駄だと思う」と真剣に意見して、でもいった通り直してくれ、後でまた元に戻してくれた。5年前ドクターストップで自転車はママチャリだけとなった。自転車屋さんにも行かなかったのだが、最近人づてのオジさんが亡くなったことを聞いた。顔を自転車に近づけるからか、ツバの短い帽子をかぶり、油の付いた手と作業服でいつもニコニコしていたオジさんの姿がよぎった。