ivataxiのブログ

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赤いオリベッティー・バレンタイン

一人暮らしという奴に憧れた19歳。参宮橋で四畳半一間風呂なしトイレ共同の一人暮らし。専門学校は中退し、お茶美夜間デッサンの浪人生活。バイトは秋までで終了。仕送りの半分くらいの金額で「赤いオリベッティー・バレンタイン」というタイプライターを買った。「何で?」といっても自分でもわからない。だって、英語はだめだし、タイプを使う必然もない。手紙は紙に手書きだったし、高額な壷を買った人の気持ち。でも「そこに赤いタイプライターがある」という満足感は四畳半を宮廷のように充実感で満たした。結局、うまくタイプは打てるようにもならず、何度かの引越しでどこかに失って久しい。現在は、jis企画のキィーボードで文字を打つことができるようになっている。バレンタインを買った当時も、お金があれば「電動のタイプライター」というのがあった。指の力は関係なく、どの文字も同じ圧力でカーボン紙で紙に印字ができて、当時は画期的だった。小指や薬指は不器用だから、どうしてもおかしな圧力でタイプを打つ。時には、印字の文字の途中の針金同士がからむ。現在、パソコンでは何も文字の圧力など考える必要はなくなったし、カーボン紙もいらない。もしかしたら、紙だっていらない場合もある。あの、当時の無駄に近いタイプライターの文字も、今となっては得がたい失われた時のキィーワードのひとつなのかも知れない。