ivataxiのブログ

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アマギ

学生時代は参宮橋にすんでいた頃があり、その頃は、新宿・赤坂・中野の大学の同級生が良く遊びに来ていた。彼らは自宅から通っていた連中だったから「空腹」という言葉の真の意味をわかっているとは思えなかった。だが、ぼくはその言葉を常に体感していた。二年浪人していたから「お兄」と呼ばれることもあった。「お兄。今日は満腹にさせてやるから」と、彼らにいわれた。つれていってもらったのは「渋谷のアマギ」という喫茶店だった。なんと言うこともない店なのだが、トーストが食べ放題なのだった。初めはうれしくてどんどんお変わりした。だが、トーストが胃袋の形に押し込まれた状態というのは、内側が乾いたスポンジでこすられたみたいな感覚だった。冷房がとてもきいていた。時間が経っても一向にトーストは胃袋に入っていかない。他の席も次第にいなくなっていった。空虚な話題が空回りしだした。その店には一度だけしか行かなかった。それ以来、トーストは一皿で良いと思った。