股間交換
ある男がいきなりドアの前に立っていた。
その前に「ピンポ~ン」と、ドアホンが鳴ったかも知れなかった。
自宅ではほぼ裸で暮らしているから、こんな時あわてて最低限の衣類を体に巻き付けて外に出る。
その男は名刺を出したかも知れないし、いきなり話始めたようにも思える。
ともかくこうだ。
「あなたのモテあましている股間を、ぼくに譲ってもらえませんか?」というのだ。
「ああ。ちょうどよかった。じゃあそうしましょう」ということになった。
その男は、実はまだ完全な男とはいえない男だった。
整形手術で、男らしい外観は手に入れたのだが、生殖器は誰かに譲ってもらわなくてはいけないらしい。
そうすれば、女性と結婚して子供を産むこともできるし、正規の結婚として保険加入とかも簡単になるという。
彼は、女性の体に生まれたが、男性の心を持ってしまった。
ようやくここ日本でもそういう状態を認める傾向にある。
あとは「ドナー」だが、死んだ人というのではなく、生きている男性の承認を得て、性器を移植するのがベターだという。
彼にとってのベターはとてもいいに近いベターであり、ドナーのとってはかなりマズイに近いベターだろう。
手術を受けて、オレは持て余していた股間のイチモツを失った。
一応、その元女性の性器を移植してもらった。
だから「オレ」という一人称も、最近は「ボク」に変わった。
男になりたかったその女性から、一定の金額が毎月振り込まれているから、少しは生活の足しにはなった。
持て余していたと思っていても失ってみると、意外に毎日目にして手にもした物だったのだな、とおかしな気分にもなった。
しかし、少しづつ慣れるしかない。
深夜寝ていると、妙に寝苦しい。
ないはずの股間がうずくのだ。
どうやら、移植した先方が今、女性とソレを交えて性能チェックの真っ最中らしいのだ。
よく、心臓や眼球などを移植した場合、自分とは違うドナーの記憶などがリンクするケースもあるという。
離れていても肉親の痛みが伝わるように、離れても自分の分身の経験が伝わるのだろうか?
ボクは元々童貞だったから、ソレがどんな感覚なのかは知らない。
彼は整形によって女性の好む外観を持っているから、道行く女性たちは放置するはずもない。
なので、毎夜毎夜、いや、昼も夜もないはずの股間が悩ましい。