ivataxiのブログ

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手遊び

色川 武大さんという小説家の作品が面白いと本を貸してもらったこたがあった。1999年のことで、貸してくれた人にはその本を返したがタイトルは忘れた。彼の自伝のような話だったと思う。戦中のことで中学でガリ版の同人誌発行が学校に知れて無期停学処分のまま終戦を迎えたため卒業のタイトルがないまま様々なアウトローな職業につく。文中で「おれのような遊び人は」というような表現が出てくるが、小説を書くような人だ、時代が違えばもっと違っただろう。何しろ自己表現はいけない時代で彼は何をしてもいけない、何をしなくてもいけない状態で無期停学戦中の青春を生きて続行しなくてはならなかった。察するに文章を書いたりする楽しみを絶たれたらたいへんつらかっただろうと思う。作家が自ら「断筆宣言」するのとは違う。国家からの命令なのだ。しかも青春時代。彼は相撲の力士の名前をすべて暗記しており、右手と左手をそれぞれ力士に見立て、勝手にトーナメントを作り試合のシュミレーションをしたりして過ごしたという。周囲からすれば常に手のひらを握ったりこすりあわせたりしているだけだから全くの無害で「おかしな奴だ」と学校や憲兵には思われただけだっただろう。でも、彼の頭の中では様々にストーリーが展開しており、後に小説を書く頭脳はこの頃には着々と成長していたのだろう。そんな時代の足音が聞こえる。手のひらを合わせてもんでみるか?